ZIPスリップ攻撃は、ZIPファイルを解凍する際に、悪意のあるファイルがサーバーやシステム内の重要なファイルを上書きする攻撃です。通常、ZIPファイルは圧縮されたファイルやフォルダを展開して指定のディレクトリに配置しますが、攻撃者は特別に細工されたパスを含むZIPファイルを使用し、解凍プロセスを通じてターゲットシステムのディレクトリ外にファイルを書き込むことが可能です。
例:ZIPスリップ攻撃のシナリオ
例えば、ZIPファイル内に以下のようなパスが含まれていたとします。
../../../../../etc/passwd
解凍処理でこのパスがそのまま使用されると、/etc/passwdファイルが攻撃者の用意した内容で上書きされてしまう可能性があります。これはシステムの重要なファイルを上書きするため、致命的なセキュリティリスクとなります。
ZIPスリップ攻撃の仕組み
ZIPスリップ攻撃は、ZIPファイル内に格納されたファイルのパスを悪用することで発生します。攻撃者は、解凍時にファイルパスを逆方向(../)に遡るパスを含めることで、通常の展開先ディレクトリ外のファイルにアクセスすることを狙います。
攻撃の流れ
悪意のあるZIPファイル作成 攻撃者は、ZIPファイル内に悪意のあるファイルパス(例えば、../../../../../etc/passwdなど)を含むファイルを作成します。
ターゲットサーバーへのアップロード このZIPファイルが、Webアプリケーションやサーバーにアップロードされ、解凍処理を行う機能がある場合、攻撃者はこのZIPファイルをターゲットシステムにアップロードします。
解凍プロセスの実行 サーバー側でZIPファイルを解凍する際、アプリケーションがファイルパスを適切に検証していないと、悪意のあるパスがそのまま展開され、システム外部のファイルに上書きされます。
重要ファイルの上書き 攻撃が成功すると、システムの重要なファイル(設定ファイル、実行ファイルなど)が上書きされ、システムが破壊されたり、攻撃者がシステムを乗っ取ることが可能になります。
ZIPスリップ攻撃のリスク
ZIPスリップ攻撃が成功すると、攻撃者はシステムやアプリケーションの挙動を完全に制御できるようになります。具体的なリスクは以下の通りです。
1. ファイルの上書きによるシステム破壊
重要なシステムファイルが上書きされることで、システムが正常に動作しなくなり、完全にダウンする可能性があります。
2. 権限の昇格
攻撃者がシステムの設定ファイルや認証ファイルにアクセスして改ざんすることで、権限昇格が可能になります。これにより、攻撃者は管理者権限を取得し、さらにシステム全体を乗っ取ることができるようになります。
3. マルウェアのインストール
上書きしたファイルに悪意のあるコードやスクリプトを埋め込むことで、攻撃者はマルウェアをインストールし、システムのバックドアを作成して持続的な攻撃を行うことが可能です。
ZIPスリップ攻撃の防止策
ZIPスリップ攻撃を防ぐためには、ZIPファイルの解凍処理時にファイルパスを厳格に検証する必要があります。以下に、具体的な防止策を紹介します。
1. ファイルパスの検証
解凍プロセス中に、ファイルパスを検証して不正なパスが含まれていないか確認することが重要です。特に、ファイルパスに「../」が含まれていないかチェックし、解凍先が許可されたディレクトリ内に限定されているか確認する必要があります。
例:ファイルパスの検証(Python)
import os
import zipfile
def is_safe_path(basedir, path, follow_symlinks=True): # パスの正規化
if follow_symlinks:
return os.path.realpath(path).startswith(basedir)
return os.path.abspath(path).startswith(basedir)
def extract_zip(zip_file, extract_to):
with zipfile.ZipFile(zip_file, 'r') as zip_ref:
for member in zip_ref.namelist():
file_path = os.path.join(extract_to, member)
if not is_safe_path(extract_to, file_path):
raise Exception(f"不正なパスが検出されました: {file_path}")
zip_ref.extract(member, extract_to)
このコードは、ファイルパスが指定のディレクトリを逸脱していないかを確認し、不正なパスがある場合に解凍を中止します。
2. ディレクトリ外への展開を防ぐ
ZIPファイルを解凍する際に、解凍先のディレクトリを厳密に制御し、その範囲外にファイルが展開されないように制限します。これにより、攻撃者が任意のディレクトリにファイルを書き込むことを防ぐことができます。
3. 最新のセキュリティパッチの適用
サーバーやアプリケーションのフレームワーク、ライブラリの脆弱性を突く攻撃を防ぐため、常に最新のセキュリティパッチを適用することが重要です。ZIP関連の脆弱性が発見された場合も、迅速にパッチを適用して攻撃リスクを軽減します。
4. アップロード可能なファイル形式の制限
WebアプリケーションがZIPファイルのアップロードを許可する場合、アップロード可能なファイル形式を制限し、必要のないファイルのアップロードを禁止することで、攻撃のリスクを減らすことができます。
まとめ
ZIPファイルによるファイル上書き攻撃、いわゆるZIPスリップ攻撃は、システムに重大なリスクをもたらす可能性のある脆弱性です。ZIPファイルを解凍する際に不正なパスが使用されると、サーバー上の重要なファイルが上書きされ、システム全体が危険にさらされます。こうした攻撃を防ぐためには、ファイルパスの厳密な検証やディレクトリ外への展開を防ぐ対策が不可欠です。安全なZIPファイルの処理を行い、システムのセキュリティを確保しましょう。