クロスサイトスクリプティング(XSS)は、Webアプリケーションにおける代表的な脆弱性の一つです。特に、ファイルアップロード機能があるアプリケーションはXSS攻撃の標的となりやすく、ファイルのコンテンツ、Content-Type、ファイル名、メタデータなどを細工したXSS攻撃は、より巧妙で発見が難しいものです。この記事では、こうしたファイル関連のXSS攻撃の仕組みやリスク、対策について解説します。
XSSとは?
まず、XSS(クロスサイトスクリプティング)とは、悪意あるユーザーがWebページにスクリプトを挿入し、他のユーザーにそのスクリプトを実行させる攻撃です。これにより、攻撃者はユーザーの個人情報を盗んだり、不正な操作をさせたりすることができます。
XSSにはいくつかのタイプがありますが、今回はファイルに関連する特殊な手法について焦点を当てます。
ファイルコンテンツを細工したXSS攻撃
ファイルコンテンツを細工したXSS攻撃は、主にファイルアップロード機能を悪用した攻撃です。攻撃者は、アップロード可能なファイルの中にスクリプトを埋め込み、特定のタイミングでそのスクリプトを実行させます。
1. 悪意あるファイルのアップロード
攻撃者がファイルをアップロードする際、例えば以下のような悪意のあるHTMLやJavaScriptコードをファイル内に含めることができます。
<script>alert('XSS攻撃!');</script>
アップロードされたファイルがユーザーによって表示されると、ブラウザはそのファイルの内容をHTMLとして解釈し、スクリプトが実行される可能性があります。
2. HTMLファイルのアップロード
アプリケーションがHTMLファイルのアップロードを許可している場合、そのファイルが表示されたときに悪意あるJavaScriptが実行されることがあります。例えば、攻撃者が.html形式のファイルにXSSスクリプトを埋め込み、それがそのままレンダリングされると、ユーザーが閲覧した際にXSSが発生します。
Content-Typeを細工したXSS攻撃
Content-Typeは、ブラウザに対してファイルの種類を伝えるためのヘッダー情報です。攻撃者は、このContent-Typeを細工し、本来とは異なる形式でブラウザにファイルを解釈させ、XSSを誘発させることが可能です。
1. Content-Typeの偽装
例えば、攻撃者が画像ファイル(.jpgや.pngなど)としてファイルをアップロードし、そのファイルのContent-Typeヘッダーをtext/htmlに偽装します。サーバーがそのContent-Typeを尊重し、ファイルをHTMLとしてレンダリングすると、埋め込まれたスクリプトが実行される可能性があります。
2. MIMEスニッフィング攻撃
一部のブラウザは、Content-Typeヘッダーを無視してファイルの内容を自動的に判断する「MIMEスニッフィング」を行うことがあります。この場合、攻撃者がファイルのコンテンツにスクリプトを埋め込むことで、ブラウザがそのファイルをHTMLとして誤解し、XSSが発生することがあります。
ファイル名を細工したXSS攻撃
ファイル名そのものにもXSSのリスクがあります。アップロードされたファイルの名前がそのままWebページに表示されると、ファイル名に含まれたスクリプトが実行される可能性があります。
1. 悪意のあるファイル名
攻撃者が以下のようなファイル名を付けてファイルをアップロードするとします。
"><script>alert('XSS!');</script>
このファイル名がそのままHTMLとして表示されると、ブラウザは<script>タグを解釈してスクリプトを実行してしまう可能性があります。特に、ファイル名をサニタイズ(無害化)せずにWebページに表示するシステムでは、このような攻撃が成功するリスクが高まります。
メタデータを細工したXSS攻撃
画像やPDF、ドキュメントなどのファイルには、メタデータとして様々な情報が含まれています。このメタデータに悪意のあるコードが埋め込まれることで、XSS攻撃が行われる場合があります。
1. 画像のメタデータにスクリプトを埋め込む
例えば、画像ファイルのEXIFデータ(カメラの設定情報や位置情報など)にJavaScriptを埋め込むことができます。このメタデータがブラウザやアプリケーションで表示された場合、スクリプトが実行されることがあります。
2. PDFメタデータの悪用
PDFファイルもメタデータを持っており、攻撃者はここにスクリプトを埋め込むことで、PDFを表示した際にXSSが発生するように仕向けることができます。
XSS攻撃の対策
ファイルコンテンツやContent-Type、ファイル名、メタデータを細工したXSS攻撃からWebアプリケーションを守るためには、以下の対策が重要です。
1. 入力値と出力のエスケープ処理
ファイル名やメタデータをWebページに表示する際は、必ずエスケープ処理を行い、HTMLやJavaScriptコードが実行されないようにします。ファイル名には予期しない文字が含まれないよう、サニタイズ処理を徹底しましょう。
2. Content-Typeヘッダーの適切な設定
サーバーはアップロードされたファイルのContent-Typeを正確に検証し、ファイルの種類に応じた適切なレスポンスヘッダーを返すことが重要です。また、X-Content-Type-Options: nosniffを設定して、ブラウザがMIMEスニッフィングを行わないようにすることも推奨されます。
3. ファイルアップロード制限
アップロード可能なファイルの種類をホワイトリスト方式で制限し、不必要なファイル形式のアップロードを禁止します。特に、HTMLやJavaScriptが含まれるファイルのアップロードは避けるべきです。
4. メタデータの削除
画像やPDFファイルなどのアップロード前に、メタデータを自動的に削除することで、メタデータを悪用した攻撃を防ぐことができます。
5. セキュリティスキャンとテスト
定期的にセキュリティスキャンやペネトレーションテストを行い、アプリケーションがXSS攻撃に対して脆弱でないか確認しましょう。
まとめ
ファイルアップロード機能は便利ですが、適切にセキュリティ対策を講じなければ、XSS攻撃の大きなリスクとなります。ファイルコンテンツ、Content-Type、ファイル名、メタデータを悪用したXSSは、見つけにくく非常に危険な攻撃手法です。エスケープ処理、ファイルの検証、アップロード制限などのセキュリティ対策を徹底し、安全なWebアプリケーションを提供することが重要です。